花粉症の治療方法のひとつで、アレルゲン免疫療法(減感作療法)というものがあります。

ここでは、アレルゲン免疫療法について解説します。。

アレルゲン免疫療法(減感作療法)とは何か?

アレルゲン免疫療法は、減感作療法、抗原特異的免疫療法とも言われ、アレルギー反応(くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの諸症状)の原因となっているアレルゲン(花粉症であれば、花粉の抽出液)を定期的に、徐々に体に取り込み、アレルゲンに体を慣らしていく治療法1)です。

アレルゲンに体を慣らすことで、アレルギー反応の起きない体質に変えていく、ということです。

花粉症の治療の中では、『治癒または長期寛解を期待できる唯一の方法』とも言われています1)

 

皮下注射による免疫療法(皮下免疫)と舌下免疫療法

アレルゲン免疫療法には皮下注射によるものと、舌下に投与するものと2種類あります2)

もともと日本では、30年ほど前(1963年)からアレルゲン免疫治療が行われるようになりました3)が、

  • 注射による治療のため40回以上の通院が必要4)
  • 2年以上という長期の治療期間が必要1)
  • 頻度は少ないとはいえ重篤な副作用がある4)
  • 実施している医療機関が少ない1)
  • 即効性に乏しい3)

といった点などから、薬物療法に比べるとあまり普及していませんでした。

そこで、アメリカやヨーロッパで特に研究がすすめられていた、舌下から服用する舌下免疫療法に対する研究が日本でも熱心に取り組まれ、新たに2014年、スギ花粉症の舌下免疫療法が保険適用となりました2)

海外と日本では抗原となる物質が違うため、日本の「スギ花粉症」の治療としての舌下免疫療法の治療薬の開発には時間がかかったのです5)

治療方法の違いなどを下記表にまとめてみました。

<皮下免疫療法と舌下免疫療法まとめ>

皮下免疫療法 舌下免疫療法
治療方法  皮下注射

皮下注射2)

 舌下免疫療法舌下に投与
(錠剤もあるが2017年時点でまだ保険適用になっていない6)
頻度や治療の流れ
  • 薄く希釈したエキスを少量から注射2)
  • 最初は週1回、だんだんと濃度を上げていき2週間に1回、1ヶ月に1回にしていく2)
  • 1日1回舌下に薬剤を投与2)
  • 投与後は1分間または2分間舌下に保持し,その後飲み込む2)
  • 投与後5分間はうがいや飲食を控える2)
  • 投与前後2時間程度は入浴や飲酒・激しい運動を避ける2)
  • 投与する薬の量は徐々に増加2)
  • 初回は医療機関で投与するが、2日目以降は家族など人のいるところであれば自宅で投与が可能2)
治療期間 効果が出るまでに3ヶ月、効果維持のために最低2年、できれば3年以上月1回の注射を続ける2)  治療期間は2年以上, 3 ~ 5年が推奨2)
3~4年間継続して舌下免疫療法を行うと,中止後も長期にわたり効果が持続する5)
有効性 スギ花粉は70%前後。3年以上治療を行った患者で、治療後4~5年経過した段階でも80~90%の効果継続がみられる 2) スギ花粉のみの調査では、

  • 2006年から2009年3年継続の投与142症例のうち約70%の患者が症状改善1)
  • 2014年から2016年の2年間(2シーズン)治療を受けた132例において75%の患者が例年より症状が軽いと実感7)
副作用など安全性について  ・注射部位の腫れ1)
・全身の発赤、ショック症状、喘息が注射後15分以内にまれに起こることがある 2)
  • 口腔内の腫れ,かゆみ(ただし投与後数時間で自然に回復 2)
  • アナフィラキシーなど重篤な症状が起こる可能性もあり 2)
  • 2015年に1年目の治療を受けた140名において、アナフィラキシーの発生は0%、口腔・鼻腔などにおける軽い副反応は約20%において認められた 7)
  • 治療を開始した初めの年においては約40%の副反応の報告もある8)

表内に記載の各参考文献をもとに、当サイトオリジナルで作図

 

 

気になるのは治療の効果ですよね。

 

スギ花粉症のおけるアレルゲン免疫療法効果については皮下、舌下ともに、70%前後の有効性が確認されています1)2)7)

また、舌下免疫療法は比較的新しい治療法のため、「治療を受けたらどのぐらい効果が続くのか?」という点に関するデータはまだまだ少ないですが、皮下免疫療法においては3年以上治療を行った患者において、治療後4~5年経過した段階でも80~90%の効果の継続が認められています 2)

アレルゲン免疫療法の効果とメリットとデメリット

従来よく処方される飲み薬などの薬の服用での治療は、あくまで一時的な効果なので、花粉の飛散期間は毎日、そして毎年続けなくてはいけません。

ですが、アレルゲン免疫療法だと治療後は数年単位で何もしなくても症状が軽減するという点で、

  • 長期的な治癒・改善が見込める
  • 飲み薬などを飲まなくてもよくなれば、眠気などの副作用に悩まされない
  • 生活上気を遣うポイントが減るのでストレスが軽減される
  • 鼻炎から副次的に起こる不眠や頭痛から解放される

という点がメリットとして考えられるのではないでしょうか。

ただ、デメリットもあります。

  • 皮下免疫、舌下免疫ともに長期治療、定期的な通院が必要
  • 重篤な副作用の危険性が低くなった舌下免疫療法でも、軽い違和感などの副作用の例は多い(ただし2年目の治療では少なくなっている8)
  • どこの病院やクリニックでも実施しているわけではなく、治療を行っている医療機関は2017年11月時点ではまだ限られている
  • 2017年11月時点において、12歳未満についてはまだ治療対象外
  • 花粉が飛んでないシーズン前の時期から治療を開始する必要がある9)

などです。



薬を飲む、使うのと免疫療法はどっちが良いの?

飲み薬や点鼻薬などを用いた治療と、免疫療法とどちら方が症状が軽くなるのか、は気になるところですよね。

舌下免疫の治療を行った人と、薬の服用で治療を試みたグループを比較したところ、くしゃみ・鼻水・鼻づまり・目のかゆみ、などの症状において舌下免疫療法の方が改善を認めた、という報告がありました。

また、舌下免疫療法では1年目に続いて、2年目ではさらに症状が改善したということでした。

と、こういう結果を見ると「じゃあ、免疫療法のほうが良いじゃん!」と思う方もいらっしゃるかと思いますが、治療法を開始する時期に両者では大きな違いがあります。

●飲み薬や点鼻薬を用いた治療(初期療法、薬物療法)

花粉飛散予開始日または症状が少しでも現れた時点。
薬によっては飛散予測日の1週間前をめどに治療を開始 2)

 

●舌下免疫療法

スギ花粉が飛んでいない時期に治療を開始する。
詳しい開始時期は医師と相談。

 

そのため、ご自身にとってどちらの治療が合いそうかは、必ず舌下免疫療法を実施している病院・クリニックのお医者さんと相談をしてください。

現在研究中の皮下と舌下以外の免疫治療方法

アレルゲンを少しずつ取り入れて、体を慣らしていく(反応しにくい体質にしていく)という、体質改善による治療法は、皮下・舌下以外にもさまざまな方法が検討されています。

その中のいくつかの方法をご紹介したいと思います。

いずれも、皮下、舌下免疫治療と比べて

  • 副作用のリスクを減らすこと
  • 治療期間を短くすること

を主な狙いとしています。

DNAワクチンによるスギ花粉治療

アステラス製薬にて開発中の、DNDワクチンを用いた治療法です。

減感作療法より短い治療期間における数回の投与で、長期的な症状寛解を可能とする根本治療を目指しています。
参照元:アステラス製薬ホームページ.https://www.astellas.com/jp/corporate/news/detail/-jrc2-lamp-vax.html,(参照 2017-11-7)

ということで、現在の免疫治療においての「治療期間の長さ」という、問題点がこちらの治療法では改善されるかもしれません。

スギ花粉米(ペプチド療法)

アレルゲンそのものを投与するのではなく、アレルゲンの一部である「ペプチド」というものを抽出し、治療に活用するのがペプチド療法と呼ばれるもので、この考えを私たち日本人がよく口にする米に発現させることで、効率的に経口摂取することを狙った治療法です10)
臨床研究においては、5か月間の経口摂取の結果、鼻症状の軽減化傾向も見られたとのことで11)、2017年10月より、東京慈恵会医科大学、および大阪はびきの医療センターでも研究がおこなわれる予定です12)

※上記は充分に副作用のリスクについて検討された治療法です。安易なスギ花粉加工食品の摂取は危険です。詳しくは下記を参照ください。

経リンパ節免疫療法

皮下、舌下免疫療法と仕組みは同じですが、投与場所が経リンパ節になる治療法です13)
皮下、舌下免疫療法よりもごく少量の抗原投与、および少ない投与回数で効果を期待できるため、こちらも臨床検討の最中です。

なお、その他にも「アジュバント免疫療法」と呼ばれるものもある14)など、花粉症の免疫治療についてはさまざまな研究がおこなわれています。

より手軽に、効果的な治療法の選択肢が増えてくると、私たち患者としてもありがたいですね。

注意!スギ花粉を含んだ食品を治療目的で摂取するのは危険

昨今、スギ花粉症にいいと暗示された花粉加工食品によるアナフィラキシーショックの健康被害事例がありました15)

アレルゲンを少しずつ摂取していく免疫療法は、厳密に摂取量・投与方法を医師管理の元に初めて行える治療法です。
使用するスギ花粉のエキスも治療用に厳密に成分が定めお薬です。

卵アレルギーの人が卵を食べたら危険なように、通常はスギ花粉症の人がスギ花粉を食べたら、重篤なアレルギー症状を起こす危険が十分に考えられます。

花粉加工食品に関らず、自分がアレルギーを持っているとわかっている成分を含む食品については、自己判断で治療目的で摂取することのないよう、十分に注意してください。

 

<参考文献>

  1. 東京都福祉保健局.スギ花粉症の舌下減感作療法の臨床研究報告書.2009,P.1,10,http://www.tokyo-eiken.go.jp/files/kj_kankyo/kafun_servey/slit_houkoku.pdf,(参照 2017-11-7).
  2. 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会.鼻アレルギー診療ガイドライン -通年性鼻炎と花粉症-2016年版,改訂第8版,株式会社ライフ・サイエンス,2015,p. 36, 58-63, 68.
  3. アレルギー性鼻炎に対する免疫療法の指針.日本鼻科学会会誌 2011年版,2012,vol51.No. 2,P. 34,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrhi/51/2/51_119/_pdf,(参照 2017-11-07).
  4. 岡本美孝.アレルギー性鼻炎に対する抗原特異的免疫(減感作)療法の現況.日本耳鼻咽喉科学会会報,2012,Vol. 115,No. 11,p. 944-949,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/115/11/115_944/_pdf,(参照 2017-10-30).
  5. アレルギー性鼻炎に対する免疫療法の指針.日本鼻科学会会誌.2014,vol53.No. 4,P.82, 92,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrhi/53/4/53_579/_pdf,(参照 2017-11-7).
  6. 鳥居薬品株式会社.スギ花粉症に対するアレルゲン免疫療法薬 「シダキュア®スギ花粉舌下錠」の発売予定時期に関するお知らせ.鳥居薬品株式会社ホームページ.2017,http://www.torii.co.jp/release/2017/20171005_1.pdf,(参照 2017-11-10).
  7. 太田伸男ほか.アンケートを用いた舌下免疫療法に関するスギ花粉症患者の実態調査 1シーズン目と2シーズン目の比較.日本耳鼻咽喉科学会会報.2017,Vol. 120,No. 7,p. 916,918,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/120/7/120_914/_pdf,(参照 2017-11-10).
  8. 湯田厚司ほか.スギ花粉症舌下免疫療法の治療2年目における症状改善の増強効果.日本耳鼻咽喉科学会会報.2017,Vol. 120,No. 1,P. 47, 50, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/120/1/120_44/_pdf,(参照 2017-11-10).
  9. 鳥居薬品株式会社.舌下免疫療法Q&A.鳥居薬品株式会社ホームページ.http://www.torii-alg.jp/slit/faq.html,(参照 2017-11-10).
  10. スギ花粉症緩和米の研究開発について 詳細解説バージョン.国立研究開発法人 農業生物資源研究所ホームページ.2009,http://www.naro.affrc.go.jp/archive/nias/gmo/basic.html,(参照 2017-11-10).
  11. 高岩文雄ほか.経口型アレルギーワクチン“スギ花粉米”の有効性.口腔・咽頭科.2017,Vol. 30,No. 1 p. 5,https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology/30/1/30_5/_pdf,(参照 2017-11-10).
  12. 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構.(お知らせ) 「スギ花粉米」の研究を目的とした外部機関への提供の審査結果について.国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構ホームページ.http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nias/077693.html,(参照 2017-11-10).
  13. 寺田哲也.経リンパ節免疫療法.アレルギー・免疫.2017,vol.24,No.3,P.32-36.
  14. 大久保公裕.“花粉症のセルフケア”.的確な花粉症の治療のために.第2版,厚生労働科学研究 公益財団法人日本アレルギー協会,2015,P.12,http://www.jaanet.org/pdf_files/allergy_nose03.pdf,(参照 2017-11-10).
  15. 国立健康・栄養研究所.スギ花粉等を含むいわゆる健康食品について.「健康食品」の安全性・有効性情報,http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail885.html,(参照 2017-11-10).